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『訪れ 04』


スッカリ日が暮れてあたりが暗くなった。
ツイツイ剣道部で京一の様子やら練習の様子を見ていて(悩みながらだったセイもあるのだが)時間が遅くなってしまった。既に7時を過ぎている。
きっと京一もそろそろ生徒達と一緒に下校してしまっただろう。。
何となく中谷とのことを見られて・・・助けて貰ったけれど気まずくて。そのまま京一に会わずに一人で帰れるのにホッとした。

「美里先生。」
「な、中谷先生っ。まだ・・・いらしたんですか?」
「待ってたんですよ。ふん。美人っちゃー美人だけど・・・お堅くて面白みのない女の癖に。良くも僕をこけにしてくれたよね。やっぱりお返し・・・と言うかそれなりの・・・事をして貰わないと・・・ね。」
そう言って醜い嫌らしい欲望を丸出しにした笑いを薄く口元にはく。
「・・・・・・中谷先生!」
鞄を胸の前で抱きかかえるようにして少しずつ後ろに後ずさる。
「ふっふふふ・・・こんな人気のないところに・・・飛んで火にいる夏の虫ってね・・・クククク・・・」
「や、止めてくださいっ。何を・・・っっ」
そのまま美里にグッと近づくとその腕を強く掴んでそのまま校舎の裏側の方へと連れて行かれる。
ここは・・・
校舎裏。かつて龍麻と京一が佐久間と戦った場所。
その時の・・・倉庫。そこに連れて行かれて・・・ドンッと中へ突き飛ばされた。
「きゃっっっ」
「さぁあて。コレで誰ももう来ない・・・大人しくしてれば良かったのによ。」
すっかり今までと口調も表情も明らかに違う。本性をむき出しにした・・・醜い姿・・・
「や、止めてくださいっ。こんな事して只で済む分けないじゃないですかっ!」
「へぇ〜アンタ勇気あるんだ?自分が襲われましたって・・・周囲の人間に言えるんだぁ??」
嫌な笑いをしながら一歩一歩美里に近づく。
ビクンと体が震える。そんなこと言えるわけがない。いや。いやだ。誰か助けて!
みんな!龍麻!・・・京一君!!!
「・・・・・・」
祈るようにただただ震える体を抱き締めながらジリジリと後ろに逃げる。
狭い倉庫の中すぐに背中が壁に当たる。もう逃げられない。
ニヤリ―――――――
闇の中で邪悪な笑みが自分をねっとりとした視線で嘗め上げる。
ゾクリっと背筋に悪寒が走る。
「い、嫌っっ」
手が伸びる・・・触れる。
服に触れて・・・それだけで闇に犯されそうな・・・既に自分は穢された様な気がしてガクガクと震える。
「クククク・・・」
声を抑えた嫌な笑いがあたりに響く。

――――――とその時。

「美里!美里此処にいるのか??」
「!!きょっっっウグゥウ・・・・・・・」
倉庫の外に京一がいる。何故かはわからないけれど自分を探してくれている。
声を出そうとして中谷の手で口を塞がれる。
「ふんっ黙ってな。」
「美里??おっかしいな・・・まだいると思ったんだけどな?もう帰っちまったか?」
外から聞こえる京一の声。涙が溢れる。
京一、京一、京一!!助けてっ京一っっ!!

外が静かになった・・・人の気配が感じられない。
所詮声なき声なんて・・・届かない。奇跡なんて起きない?
止めどなく哀しみに涙が溢れる。
「やっと行ったな。さてと。お楽しみはこれから・・・だ。」
そう言って再び中谷が倉庫の入り口に背を向けて美里の方を向いた。
嫌な舌なめずりをした中谷に怖気が再び走る。
ドンッッッッッ!!!!!!
凄まじい音と共に倉庫の入り口が吹き飛んで中谷に直撃する。
「うわっっ」
「美里!大丈夫か!!」
「きょ、京一君っっっっ!!!」
パッと中谷を直撃し踏みつけている扉をそのまま橋代わりにその上を乗って美里の所までやってくると涙を零して震え続ける美里をぎゅっと腕の中に抱き締めた。
「良かった・・・」
「きょ、京一・・・君・・・う・・ううっっううう・・・・」
そのまま腕の中で泣き続ける美里を抱き上げる。
衣服に乱れはない。何とか間に合ったらしい。ホウッと安堵のため息を吐くと扉越しに自分の下敷きになっている中谷に憎しみを込めて一発を入れる。
その場で思い切りジャンプして美里に衝撃を与えないようにして全体重を載せるように扉を踏みつぶすっっ。
メキッッ
何か音がしたような気がするが、きっと気のせいだろう。鉄の扉だ。幾ら自分が乗ったとて曲がったりへこむはずもない。なら大丈夫だ。下には"何もない"はずなのだから・・・
そのまま美里を抱きかかえて倉庫を後にする。

未だに震えながら泣き続ける美里を苦しげに見つめてしっかりと抱き締める。
自分の後ろに回された腕が小刻みに振るえている。
あの野郎・・・これだけじゃ、絶対許さねぇ!!
胸に怒りを秘めて月の光の中をそうっと歩みさる。
彼女を落ち着かせるために。