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『雪は穏やかに荒れ狂う』

海外に来てもう何度目の冬だろうか・・・よく分からない。実際には北半球・南半球季節が逆転する。海外を点々としている自分達は季節など無いのかもしれなかった。
自分の傍らに静かに佇む共に行動している男の様子を窺う。
すらりとした立ち居住まい。髪を後で一つにまとめて流している。目が悪いわけでもないのにだて眼鏡を付けているが、それが悔しいほどによく似合っている。
自分より幾つか年が上の筈の彼は若く見えた。初めて逢ったときとあまり変わりがないかもしれない。

最近自分達の周囲で有る人物をよく見かける。自分達の仕事柄、焦臭い相手が周囲を彷徨くことは別段おかしいとも想わない。だが、彼はどう見ても"普通"なのだ。
確かに彼の動きはそれなりに武道などを修得したもの独特なものだ。それだけは確かだ。それもかなりレベル的に高いかもしれない・・・
だが・・・殺気を放っているわけでもない。自分達の様子を探って居る風でもない。ただ、必死になって探している・・・その様子だけが窺い知ることが出来た。
そもそも何時の頃からか彼の姿を何度も目にするようになっただけで、単なる偶然かもしれない。しかし、海外であちらこりらの国を渡り歩いていてそれは不自然だ。一体彼は何をして居るんだろうか?
自分には彼についての記憶や心当たりはない。見たことのない顔だ。
では、共にいるこの男を追っているのだろうか?
やけに必死な表情の彼を見かける度に煩く感じていたのだが、最近では此処までよく追っかけているものだと感心してしまう程である。

「壬生・・・最近おかしな奴をよく見かける・・・」
「おかしな奴?・・・敵か?」
「いや。アレは違うな・・・敵にしては純粋にしつこすぎる」
笑いながら塔屋はいった。
壬生は不思議そうな顔をして海外に来て以来常に行動を共にしている男を見た。
塔屋は壬生と同じように髪を後で一つに縛っている。眼鏡はしていない。
少し色素の薄めな髪の毛は赤毛のある男をよく思い出させた。
「もう半年以上だ。」
「半年?・・・・・・・・・・失態だな・・・」
壬生は眉を顰めて吐き捨てるように言った。
半年以上もの間塔屋が気付いていたのに自分は気付いていなかったのである。
苦々しく想うのも当然といえた。
だが・・・
「仕方ないだろう。壬生はあいつと会っていない。何時も何時もアイツを見かけるときは俺一人で行動している時だ。おそらくお前はアイツと接触していない筈だ。」
「それなら、それでどうしてもっと早くに報告しない?」
静かに押さえた壬生の口調に、塔屋は動じることもなくちょっと肩を聳やかしただけだった。
「さぁ・・・ね。"敵"でないみたいだったからな。」
「・・・そんなことを判断するのはお前じゃない。」
ぴしゃりと言いきって冷たい視線を向けられる。
「まぁ、そんなにカリカリすんなよ。今度見かけたらお前にも教えるから・・・それでいいだろう?取りあえず今のところそいつが何かを仕掛けてきたことは無いぜ?」
「・・・・・・・・・当然だ・・・」
塔屋はにべもなく言われて苦笑する。
「なぁ・・・壬生。お前に会いたい奴・・・いるか?若しくはお前に会いたがってくれる奴・・・」
一生懸命何かを探しているような彼の様子を思い出して壬生に問いかける。きっと彼は誰かに会いたいのだろう。
これだけ長い期間自分達の周囲で彼の姿を見かけると言うことは自分達に関係があるはずだ。
そして自分に心当たりがないならば・・・(逆に彼も自分の姿を何度も見ていて何もないのが"理由"俺でないことを裏付けているだろう。)おそらくこの何時も冷静でいつか拳武館と言う組織を束ねることになる壬生に関係が在るはずなのだから。
「・・・・・・」
押し黙ったままの壬生を見る。
その瞳は半分伏せられていて、何時も通りの冷静な表情で壬生の心情を推し量ることは出来ない。
壬生はチラリと視線を窓の外に移動させる。
窓の外は雪が降っている。ちらちら、ちらちら・・・静かに穏やかに降りしきる雪は彼を思い出させた。
―――元気にしているだろうか?
壬生は完全に仲間達との連絡を絶っているため龍麻の様子を知っていることもなかった。最初の頃は鳴瀧との連絡を取っていたが、龍麻とのことで煩いことから今では連絡全てを塔屋に任せていた。
「・・・さぁ・・ね。逢いたくても逢えないさ・・・それに。会いたがってくれる奴なんていやしない。」
長いこと沈黙した後、小さくポソリと呟かれた言葉を聞いて塔屋は目を見開く。
前者が居なくても、後者は居るのではないかと想っていた。
彼の姿が目に浮かぶ。
違うのか?
「そうか。じゃあ、アイツは誰を・・・捜してるんだろうな・・・」
塔屋も又小さく呟いて窓の外を見つめる。
彼はこの雪の中。又いつものようにこの街の中を必死に探し回っているのだろうか・・・
「そんなことより。お前もいずれは副館長になるんだろう。もっとしっかりして貰いたいものだが?」
「んん?はいはい。でも、そんなの・・・お前がしっかり過ぎるほどしっかりしてるから、俺はいいんだよ。なーんてな。」
にかっと笑いながら塔屋が嘯く。
壬生はどっと疲れが襲ってきたような気がして脱力した。
「もういい・・・何だって館長はお前を副館長候補にしたんだ?」
「さってね。俺に分かる分けないだろう?」
胸を張って言う塔屋に壬生はとうとう軽く頭を振ってから背を向けて自室に行ってしまった。
「相変わらず硬い奴だな。・・・・・・だから・・・だろうよ・・・」
そう一人残った塔屋は壬生の消えていった方向を見ながら苦笑いを浮かべた。

・*・*・*・*・

次の日。雪は止んでいた。
久しぶりの日差しが雪を猛烈な勢いで溶かし始めている。
その様子を窓から見ていて、こりゃ、外を移動するのは苦労するかもしれない・・・そんなことをチラリと頭のはしをかすめた。
壬生は既に何処かへと姿を消している。きっと標的の様子を見にでも行って居るんだろう。
昨日はあんな事を言ったが、遊んでいるわけにも行かない・・・
塔屋は上にコートを羽織ってドアを開けて外に出た。

町中を歩く・・・普通の人々が自分の横を通り過ぎていく。普通の世界。自分と直接関わりのない・・・そしてきっと二度と戻ることの出来ない世界・・・
目を細めてそんな周囲の様子を見渡した。
――――――と・・・そこに彼の姿を見つけて目を見開く。
相手は自分をしっかりと見ている。お互いの視線が合う。真剣な眼差しに視線を逸らすことも出来ない。
一体・・・なんだ?
疑問に想っていると彼はゆっくりと近づいてきた。
自分の前に来て彼はその秀麗な美貌に影を滲ませて話しかけてきた。
「あんた・・・・・・・・・拳武館の・・・人間か?」
一瞬何故彼が"拳武館"を知っているのか不審に思った。
やはり"敵"なのか??
「あ?なんだ??アンタ一体誰だい?新手のナンパか?」
ニヤニヤと笑いながら答えると、彼は憤然として「違うっ」と短く睨み付けてきた。
間近に見る彼は一見高校生にも見えるほど若々しかった。漆黒の黒髪が美しく長い前髪の隙間から覗く瞳が苛ついているのかやけに剣呑に光っていて自分を惹き付ける。
「じゃ、人違いだろ?・・・じゃーな。」
彼に興味がないと言えば嘘になる・・・しかし、彼に接触を持つのは不味いだろう。これこそ壬生に知れれば酷い失態だと怒るに違いない。
そのまま軽く手を振って歩き出す。
彼は自分を睨み付けているようだが、特に追ってくる様子もない。
そう思い暫くしたところでふと気付く。彼がつかず離れず自分の後を追っていることに・・・
―――面倒なことになった。
そう思いながらも、本当の想いは微笑みとなって顔に表れていた。

彼との一日追いかけっこを楽しみ何とか巻いて元のアパートへと戻る。
「随分遅くまで何を遊んでいたんだ?」
「おっ、すまねぇーな。ちょいと昨日言った奴が俺の後を追っかけて離れなかったんでね・・・」
「お前の後を?・・・・・・お前・・本当に心当たりはないのか?」
「当然だろう?有れば昨日あんな風に言ったりしない。」
「そうか・・・」
壬生はこの飄々とした男が何時も変なことを言ったりしても嘘をつくことはないと信頼していた。
なんだかんだと流石鳴瀧館長が選んだだけのことはある"できる"男でもあったからだ。
「何モンだろうな。あいつ・・・拳武館の名前を知ってやがった・・・」
「"拳武館"を知っているのか?」
「ああ。まぁ、どう見ても日本人顔だったんで日本人だろうとは思っていたけど、見事に日本語でハッキリと聞かれたよ。・・・・・・拳武館の人間か?とね・・・」
「出来るだけ別行動は避けた方がいいだろうな・・・」
「・・・そこまで警戒するこたぁないだろ・・・"敵"なら問答無用で仕掛けてくる筈だし。」
なんせ相手は"拳武館"という切り札的なものを持ち出してきたのだから・・・
「今度接触を図っていいか?」
「・・・そうだな・・・気を抜くなよ・・・」
「了解っ♪・・・って、この俺が遅れを取ると思うのか?」
「・・・念の為だ・・・」
「はいはい・・・じゃ、そう言うことで!」
そのままそそくさと自室に入ってしまう塔屋に壬生はため息を吐いた・・・

・*・*・*・*・

「ちっ・・・しくじったか・・・」
夜の裏道に人気はない・・・普通の人間のものは・・・
自分を取り囲む数人の殺気を纏った気配に注意しながらちょっと離れた町並みに視線を走らせる。
夜の闇に沈み、うっすらと窓の隙間から暖かそうな光がわずかに漏れるばかりである。
夜空に浮かぶ月が唯一の明かりか・・・
だが・・・この何処かから自分を狙撃した者が居るはずなのだ・・・どうすればいい・・・身動きが出来ない。
敵と対峙して数人を倒した。それから敵がさっと距離を保って不審に思った瞬間、衝撃が身体を貫いた。
たった一発だけだ。
「かなり腕のいいスナイパーらしいな・・・」
自分の左足の太股を貫通している傷口を押さえながら呑気な感想を述べる。
敵は別に自分に近寄ることもなく遠巻きに見守っている。おそらくはもっと体力を消耗し、抵抗できなくなったところで自分を捕まえるつもりなのだろう。
殺すつもりならとっくに死んでいる筈だ。

止血することも出来ずに数分が経つ。血が流れすぎている・・・これ以上はヤバイ・・・目が霞初めていた。
「おい。教えてくれるなら助けてやろうか?」
声が掛かった。
な、何?
朦朧とした頭で声のした方を向く。
人垣の向こう側から姿を現したのは・・・先日自分に"拳武館"かと聞いてきた彼・・・
一体どういうつもりでこんな所に!
「ば、馬鹿なっ!何でこんな所にやってくるんだっっ死にたいのか?!」
叫びは心許ないつぶやきのように掠れて消えた。
「・・・・・・・・・」
様子を窺っていた周囲の者達が動けない自分を無視して彼を取り囲む。
無茶だ!
彼は10名以上の男に囲まれて尚平然とその場に佇んでいた。
「あ。援護射撃を期待してるんなら悪かったな。もう二度と無いぞ?」
そうあっさりと彼は言うと遠距離用の銃をいとも簡単に放り投げた・・・
ガシャン・・・と言う音が辺りに響いて男達がどよめく。
だが・・・スッと冷静になると彼らはたった一人の愚者を屠るために行動を開始した。

自分の目の前で起こる出来事が真実とは思えなかった・・・
彼は素手での戦闘を主体とするようだが、その動きが壬生に似ていることに困惑を覚えた。確か壬生は館長の<技>を我流にしていたはずだ・・・ならば根本としている<技>が同じだとしか思えない。
彼は一体何者だろうか?
右から来る敵をかわしつつ正面の敵を吹き飛ばす。きっと戦闘する際の自分の位置を完全に把握しているのだろう。少しずつ自分に有利な方向へ移動し、一人を吹き飛ばすと同時に吹き飛ばした人間を後の敵にあてることでさらなるダメージを狙って行動している。
敵の拳をかわしざま腕を押さえて逃げれないようにし、敵の攻撃をその人間の身体を盾のようにして受け流す。尚かつそのままそのがら空きの胴への掌打を打ち込ませ意識を奪う。殆ど壬生とは対照的に足技を使わない・・・
何となしに出血多量でぽーっとなった頭で二人が一緒に戦う様を見てみたいと思った。きっと綺麗だろうと・・・

気がつけば周囲に立っているのは彼だけだった・・・
「随分と・・・戦闘慣れしてるんだな・・・」
「・・・アンタも我慢強いな。全く。」
激痛に耐えながらも言うことはそれか?と彼は小さく呟く。
そのまましゃがみ込むとその怪我の上に手をあてる。
「ちょっと・・・うまくいくかどうか分かんないけど・・・止血ぐらいにはなるだろうからな・・・」
そう言うと彼は目を閉じて精神を集中し始めた。
彼の手が淡く光を帯びる。美しい青色の光がふわりと塔屋の傷口に触れる。暖かい氣が流れ込んでくる。
「・・・っっ・・・」
痛みがあるわけではない。だが、異様な高揚感が身体を満たす。
熱く身体がふくれあがるような気がする。
どれほどそうしていたんだろうか。おそらくはそんなに長い間では無かったはずだ。周囲の者は未だに倒れたまま身動きすらしない。
「どう?楽になった??」
ふわりと彼が笑みを見せた。
初めてみるその微笑みに一瞬我を忘れて見とれる。
やけに綺麗な笑顔だった。人を惹き付ける・・・きっと元からの容姿も相まって人気者だったのだろう。
「あ?・・・・・・ああ。え?何で傷が??」
暫くして彼の言いたいことを理解して驚く。
「良かった。うまくいったみたいだね。・・・ところで、ちょっと場所かえない?アンタも・・・きちんとした治療を受けないといけないだろう?」
そう言って塔屋は彼に言われるまま場所を移すことにした。

傷は完治とは行かないが、かなり治っていた。おそらく病院には逆に行けないだろう。この表面にわずかな銃創が残る他はあまり異常が無いからだ。
実際歩くことも出来る。現在彼のアパートに来ているが、此処まで一人で歩いてきていた。
「随分と君は無謀なんだな。いくら強くても危険だ・・・」
「そうだね。・・・でも、アンタは手がかりだからね。死なれちゃ困るんだ。」
肩をちょっとすくめて憎まれ口を叩く。
「可愛いこと言うじゃないか。」
「どういたしまして。誉めていただいたようで嬉しいよ。」
にっこりと笑う。
「そんなことより・・・あんた・・・"拳武館"だろう?いい加減何度も姿を見れば一緒に居るんだろう事ぐらい想像つくからね。」
―――でもなんだってアイツは一度だって見かけないのにこいつばかり目に入るんだ?
そんな風に呟く彼に苦笑する。
「おい。聞こえてるぞ?」
「いいよ。聞こえたって。」
すっかり拗ねているらしい。その様がいい大人の男には不似合いなほど似合っていて思わず笑える。
「おいっ。何でそんなに笑うんだよっ!・・・・・・って。おっさん!!」
「む。おっさんって人を何歳だと思ってるんだ!・・・ってきみは幾つだ?」
「27。」
「・・・俺より年上じゃないか!!俺はまだ25だ!!!」
怒りも露わに主張すれば
「え?アンタまだ25なの?へー」
へーじゃないへーじゃ!
なにやら言いようにおちょくられてるような気がする・・・
はぁ〜っとため息を吐いてちょっと頭に手を添える。
「あっっそんなことより!アンタ"拳武館"だろう?で、壬生紅葉は?何処にいるの??」
いきなり核心だな。だが答えてやれないよ。
「ふん。誰だ。それ・・・知らないぞ?」
「おい・・・助けてやっただろう?」
「頼んだ覚えはないし。・・・そもそも"拳武館"ってなんだよ。」
素っ気なく答えてそのまま話を逸らし始める。
「・・・何って・・・え?あれ??」
普段から演技力を鍛えていた甲斐があるというもの。(嘘です)内心ほくそ笑んでそのまま問いただす。
「なぁ、そんなことより、名前は?俺は塔屋。」
「え?ああ。緋勇龍麻・・・」
「ふーん。緋勇ね。珍しい名前だな。うん。で・・・さっきの怪我が治ったのって何?なんでだ?」
「あ、あれは・・・自分の体内の氣を使って怪我とかを治すんだ。他人にやったの初めてだけどきちんと治って良かったよ。」
「そんなこと出来るのか?凄いんだな。中国とかで修行でもしたのか?」
「まぁ・・・そんな所かな?」
そのまま畳みかけるように質問を浴びせる。
随分と素直で真っ直ぐな性格なのだろうか?あっさりとこちらの言葉にのせられている。
「あれ?・・・・・・あ!だからアンタ知らないのか?壬生紅葉!」
あちゃ。思い出しちまったか?
「壬生・・・くれは?・・・そいつを探してるのか?」
「・・・・・・・・」
「嘘じゃないって。ほらほら、この真っ正直な瞳が嘘を吐いてるとでも?」
自分の目を指さしながら龍麻に詰め寄る。
「そいつを捜してるんだろ?」
「・・・・・・そう・・・探してるんだ・・・アンタが知らないと言っていてもいいや。・・・探してる!」
「・・・・・・」
最初いかにも怪しいと言いたげに胡乱な眼差しを向けていたが、直ぐに不思議なほど真っ直ぐな瞳に真剣な光が宿る。わずかに目を細めてその視線に耐える。
「あんたがそう言い続けるなら、それでも構わない。だけど言っておく。絶対逃がさないっ!だから・・・待ってろよ!!・・・・・・そう伝えておいて欲しい。」
「・・・どうしてそこまでしてそいつに会いたいんだ?」
「・・・・・・それはアンタには関係ないことだ・・・」
哀しげにその瞳を曇らせる。
「そりゃそうだ・・・まぁいいや。えっと・・・壬生・・・なんだっけ?壬生・・・」
「紅葉」
「そうそう!その壬生紅葉って奴に会ったら・・・伝えといてやるよ。それでいいんだろ?」
「・・・・・・ああ・・・」
いかにも俺の言葉を信じてなさそうに・・・縋り付くように見つめてくる。
何とも居心地が悪い・・・壬生・・・何で俺がこんな風に見られなくちゃならないんだ?
お前のセイだぞ!覚えてろよっ
心の中で悪態を吐く。

・*・*・*・*・

結局彼が飲み物を取ってくると言って席を外した空きに彼の部屋から抜け出して戻ってきた。
ドアを開けると壬生が正面に立っていた・・・
「・・・なんだよ・・・」
「・・・塔屋。何があった?」
鋭い奴だな・・・だから嫌なんだ・・・
「別に・・・何にも無いけどね?壬生の方こそ何かあったのか?」
壬生がこちらの様子をその冷静な眼差しで見つめてくる。何もかも見透かされているような気がしてどうも落ち着かない。
「・・・わかった、分かったよ。・・・はぁ〜・・・・・・・」
大げさにため息を一つ吐いて先程敵に囲まれて戦闘になったことを話した。
・・・・・・だが・・・・・・・・・彼のことは話さない。
話を聞いて壬生はその視線を足下に向けてたった一言だけ呟いた。
「きちんと治療しておけ・・・」
そのまま背を向けて行ってしまう。
何だってこんな短時間で怪我がばれるんだ?折角服を買い換えて帰ってきたのに意味がない。
もしかして、俺の服全部覚えてるのか?
そんなことをチラリと想いながらその背中に問いかける。
「壬生・・・」
振り向きもせずに壬生の足が止まる。
「おまえ・・・本当に心当たりがないのか?」
「・・・・・・」
「例の最近よく見かける奴だよ・・・俺には無いんだ・・・後は・・・お前しか居ないんだぜ?」
「・・・・・・」
「本当に・・・お前に会いたがっている奴・・・居ないのか?」
「・・・そうだ。」
壬生は背中を向けたままこちらを見ることもなくそのまま立ち去っていった。
だが・・・一瞬壬生の気配が動いた。何かを言おうとしていた・・・
何を・・・?
「壬生・・・お前何を・・・言おうとしたんだ?」
壬生の消えていった方を見遣り、そのまま窓の外に気付く。
再び雪が降り始めていた。音もなく静かに、だが風が強いのだろうか?雪は踊り狂うかのように闇夜の中舞い散っていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・End.