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『Ronde of The Fool −愚者達の輪舞−』

踊る踊る、くるくると踊る。
月に浮かぶ影達のように。
踊らされている。
まるで。

―――愚者の舞―――

―・◆・―

気が付けば。

君の姿を探している。
君の姿を追っている。
君の声を求めている。
君の笑顔に…救われている。

一体何時の間にこんなにも僕の心の中に侵入してきたんだろう。

そして何時だって。
君の後ろ姿を僕は見て居るんだ…。

「壬生?おいっっ壬生っっっ!」

ザシュッッ…

「えっ……、あ、ああ…如月さん…一体どうしたんです?」
鋭い如月の声に意識が引き戻された。
気付けばすぐ横に如月が息を切らすようにして、怒りに瞳を輝かせていた。彼の足下には…赤黒い血を流しているものが転がっている。
「何を考えて居るんだ!今戦闘中だと言うことが分かっているのか?」
「…ええ、分かっていますよ。」
「………っ、しゃあしゃあとっ!今、敵の攻撃にも気付かなかった癖に!分かっていないっ!今が…命のやりとりをしている時なのだと言うことを!」
「………いえ…分かっていますよ。誰よりも…。きっと………。」
「壬生……。」
言葉をなくした如月は納得いかない表情で壬生のことを睨んでいた。
「ふっ…そんな顔しないでください。本当に…大丈夫ですよ。」
うっすらと笑みを浮かべた壬生に如月はふぅ〜と小さくため息を吐くとそっと…その肩に額を押しつけるようにした。
「……………。」
「済みません…心配を…掛けましたね。」
艶やかな如月の黒髪が壬生の肩口で小刻みに揺れている。
壬生はその震えに気づかないかのように、サラリとしたその髪を梳いた。

―・◆・―

「壬生…頼むからもう少し…自分のことをいたわれないのか?」
「別に……。自分自身を軽んじているつもりは…ないのですが…。」
「それでも行動が伴っていない!」
結局戦闘が終わった後、如月に無理矢理連れてこられた壬生だった。
「済みません…。」
「頼むからきちんと行動にして示してくれ。もう……こんな思いは…沢山だっ!」
かぶりを大きく振って綺麗な黒髪がしなやかに宙を舞う。
「如月……んっ…。」
名前を呼べば、言葉を奪われるように、如月に唇を塞がれた。
「ふっ…んん、んっ……。」
噛み付くように口吻けられて、壬生は成されるまま黙って受け入れていた。
貪るようなそれに僅かばかり体の熱を煽られながらも壬生にはどうすることも出来ずにいた。
「んっ…。」
離れていく如月と壬生の間に銀の糸がキラリと一瞬光って消えた。
「何故…拒まない?」
如月の皮肉げな…そして、何処か哀しげな瞳が壬生を貫く。
「決して受け入れてもくれない癖に…。貴様は…最低だ……。」
「………その通りです。僕はあなたを受け入れることも拒絶することも出来ない…だから…。」
自嘲的な笑みを浮かべて、さっさと「忘れた方がいい」と告げれば、パンッッ、と頬を叩かれた。
怒りを露わに睨み付けてくる如月にそれでも壬生は…静かな眼差しで首を振ることしかできなかった。
「で、きるくらいなら…出来るくらいならとうの昔にっっ!」
如月はそう苦しげに吐き出すように叫んだ。
そのまま押し倒すようにして壬生に再び深く口づけて、体を煽る。抵抗することのない彼の体を…いいように煽り、己のものとする。
何度もその肌にキスを落としながら、すべらかな肌の感触を楽しむ。
こんなにも体は熱いのに。
なんて心は冷たい。
涙を零しながら如月は壬生の体に愛撫を繰り返し施し、己を慰める。
決して自分から動かない壬生の体を想うまま貪り、己の中に沈め込む。
「ふっ…んんっ……はぁ、んっ……。」
目を閉じたまま、壬生の頬を両手で大切そうに、愛おしそうに触れる。
見てはいけない。
彼の。
何も感じていない心を。
熱い身体とは反して、冷たい心。その…眼差し。
見る事なんて…できはしない………。
何度も自ら腰を動かして快楽を求めて、壬生にキスをねだる。
「あっ…ああっ…ふ、ぅあっ―――」
一人。
絶頂を迎えて、虚しさも強いものになる。
体は…一緒にイけたというのに。
心は…何て遠いのか。
「ふっ…ふ、ふふふ…。」
壬生の上に重なったまま涙を零す如月に壬生は何も言わず只、その髪に手を伸ばして優しく撫でた。
「はははは…本当に愚かだ…本当に…。」
静かに零れ落ちる涙を黙ったまま、壬生は綺麗だと想いながらそっと指先で触れた。
「本当に。忘れることが出来たなら………どれ程……。」

こんな男の何処が良かったというのか。
こんな決して自分を見ることのない冷たい男。
そう。そもそも男。同じ性を持つ彼をどうして?
どうして、どうして、どうしてっっ!
それでも。
彼を追う視線は止まらないし、求める心も止まらない。
こんな…決して受け入れることもない癖に、簡単に体だけを与える残酷な人。
心のない、虚ろな肉体だけを…何の感慨もなく自分に差し出した男。
誰よりも憎くて…。
誰よりも愛しい…。
それを更に拒絶できずに、縋り付くようにして離すまいと足掻く自分こそが一番醜く滑稽で仕方ない。
分かっているのに。
彼はけして振り向かない。
彼の瞳は自分を見ることはない。
なのに…離せない………。

「誰か…助けてくれ………。」

ポツリと零れ落ちた言葉は小さく、誰に聞かれることもなく闇に消えた。

―・◆・―

如月の店を出た時にはかなり遅い時間となっていた。真っ直ぐに家への道を急ぐ。
辺りは人の気配もなく、静かだった。ただ、時折風に流れる雲に遮られながらも、月光が降り注いでいた。
まるで鉛ででも出来ているかのように重い体を引きずるようにしていると、家の近くの公園を通った時にふと、人の気配を感じて壬生はスゥッとその目を細めて気を引き締めた。
「…………出てきたらどうだい?」
誰もいないはずの公園に向かって声を掛ければ、キィーキィーとブランコの鎖の音がか細く響いた。
殺気は感じられない。
そのまま立ち去ろうかとも想ったけれど、何故か足はその場所に向かって動いていた。
「由羽……。」
小さく小さく誰にも聞こえないように、小さく呟く。
寂しげに人気のない公園の中で一人ブランコに乗っているのは、緋勇由羽(ユウ)だった。
「何を…しているんだい?」
「何を…していたの?」
「……?」
逆に切り替えされて壬生は戸惑った。
「壬生こそ…今まで何処に行ってたの?何をしてたの?」
「…君には…関係のないことだろう?」

ズキリッ。

自分で告げた言葉に胸が苦しくなった。
その馬鹿馬鹿しさに、うっすらと唇の端に笑みを浮かべた。
そう。
彼女には…。
関係のないこと………なのだから。
どれ程願おうと、望もうと。

「なによ、それっ!どうしてそんなこと言うのよ!仲間でしょ?」
由羽の傷ついた眼差しが心地よい。
ソレがたとえ嫌われているのだとしても、憎まれているのだとしても、今現在彼女が、感じ、想い、願っていることは全て自分に関係のあることだから。
今。
確かに彼女の瞳は自分を見ていると思えるから。
「仲間…ね。僕は確かに君たちに力を貸すとは言ったが、なれ合うつもりはないよ……。」
「っっ!!!」

 

胸が痛い。
まるで拳をそのまま突き入れられたかのような鈍く激しい痛みに由羽はぎゅっと拳を握りしめた。
この人は…何でこんなにも全てを…ううん、私を拒絶して居るんだろう。
なのに。
なんで。
自分はこんなにもこの人に心を奪われて居るんだろう。
ヒタヒタと心を埋め尽くす報われない切ない想いに、泣きたくなる。

京一の事件で出逢って。彼の綺麗で美しく、孤独過ぎる瞳に惹かれた。
何ものをも拒絶し、たった一人で生きていく事を自ら望み、否、自らに課したその生き様に切ない程の哀しみを見た。
無表情に自分の心が血を流しているのを知りながら、ソレは自分の罪業なのだとあっさりと放置する男。
放っておけば…何処までも一人、闇に堕ちていく。
近づけば危険。
下手に触れれば…火傷では済まない。
分かっていても。
惹かれてしまった。
今自分に向けられた強い視線が嬉しくもあり、哀しい。
なぜ。
私の存在を切り捨てるかの如く冷たい眼差しなんだろう。
手を差し伸べようとして、その前に拒絶される。
その振り払われる痛みに心は何時の間にこんなに臆病になってしまったんだろう。

「私だってなれ合うつもりなんかないわよ!!でも、あんなの駄目なんだよっっ!!」
「………。」
こんな風に言うつもりなんてなかった。でも。壬生の冷たい言葉に自分を守る為に。
言わざるを得ない。
そして、思い出せば苦しい。考えるだけでも…握りつぶされそうな心を一生懸命抱きしめる。

戦闘の後、すっといつの間にかみんなの前から姿を消した壬生と如月の二人。
由羽は前々から二人の事に気づいていた。だからこそ二人の後を………つけた。
如月の家の中に姿を消した壬生。何を…していたんだろう。
分かっていても頭はその真実を拒否する。
いくら拒否しようと。どんなに目を背けようと。
二人一緒に家の中へと消えていった姿が忘れられない。
暫くそこに佇んでいたが、その場所にこれ以上いるのが耐えられなくなって公園に来ていた。いつか…壬生が帰ってくる筈の家の近くに。
まだか、まだか、と待っていた。朝になっても帰ってこなかったら…どうしよう…そればかりを考えながら。

「そうよ、壬生なんて関係ないっ!どうでもいいの!!でも、如月は私にとって大切な仲間なのっっ!!だから、如月を…傷つけないでっっっ!!!」
口にした言葉に自分自身が血を流す。流石に自分でもこんな事を言うつもりではなかったと、一瞬表情を歪めて、顔を背けた。
見られたくない。
こんな醜い…私なんて。

何て事を言ってしまったんだろう。
壬生なんてどうでもいいのだと。仲間は大切だが、お前はそうではないのだと。
切り捨てるように、嘘を付いて。
そして何よりも自分自身を愕然とさせたのは。
如月を傷つけないで、と、言外に彼から離れて!と告げるその本心。

『二人を引き離したい』

なんて自分勝手なんだろう。如月のことを想っている振りをして。
何て偽善者。
でも。
たとえそうであっても。
彼が自分以外の誰かを受け止め、共にあることを許すなんて耐えられなかった。
自分にはそんな事を言う資格など有りはしない事を誰よりも知っているくせに。
それでも。

「彼の側から離れろと?」
「そ、そうよ!」
「ふっ。ふふふ………。」
「なによっっ!」
「君には関係のない話だ。ソレこそ君にどうこういう資格などないだろう?まさか彼にそう頼まれた?」
あり得ないと知っていて壬生は由羽に告げた。
「そ、それは……。」
口ごもり俯く由羽を見つめながら目を細めた。

だからこそ自分は如月を離せなかった。
自分と同じく報われない想いに苦しむ如月。
余りにも痛みが分かりすぎて。
はね除けるには、余りにも自分達の想いは似すぎていて。
側にいると少しは寂しさを紛らわす事ができる。
仮初めでも自分を求めてくれるその姿に愛しい人の影を重ねて。
クッと自嘲的な笑みを由羽に見られないように隠しながら器用に一瞬浮かべる。
最低な…人間のクズだ…。

「ならば君が如月さんの代わりになってくれるかい?それなら…いいけど?」
「なっっ!!」
顔を真っ赤にして、驚愕の表情で恐らく怒りの余り言葉もないのだろう。口をぱくぱくさせている由羽にニィッと笑みを浮かべた。
「無理だろう?君には蓬莱寺が居るからね。」
絶対に受け入れるとは想っていない。だからこそ言えた。彼女をただ、ただ、傷つけるその為だけに吐き出された言葉。
「さ、最低…っっ!あんたにとって如月はそんな程度なの?なんてっっっ……。」
ワナワナと怒りに震える由羽を落ち着いた眼差しで見つめた。
「君が頷くとは思えないからね。ク。ククククク……。」
「分かってて……。なんて嫌な奴っっ!」
深夜の公園で二人はにらみ合う。
月光に照らし出された二人の影は長く長く、そして重なり合うことはない。
すれ違い、決して。
触れることはない。

なぜ?
何故彼女は立ち去らない?

壬生は苦々しい想いで願った。

さぁ、早く帰ってくれ。
僕には君に背を向けることが出来ない。出来ないんだ。
だから…君の方から。
君にしかソレは出来ないのだから。

だからこそ、僕は何時だって君の背中を…見てきたんだから。
早く。
でなければ…。
僕は………。

―――体が熱い。

 

どうして壬生はこんな事を言うんだろう。
訳の分からない疑問に由羽は混乱していた。彼は本当にこんな人間なんだろうか?こんな…人の心を全く理解しない本当に人形のような冷たい人なんだろうか。

――あんなに優しい眼差しも…出来る癖に。

京一が生きているんだと信じている、そう告げれば、彼は少しばかり驚きと憧憬の表情を見せた。
そして庇ってくれたその背中。
今思い出しても縋り付きたくなる程。
大きくて力強かった。
ううん。本当は。
その背中を抱きしめて癒してあげたくなる程。
誰よりも傷ついて痛々しかった。
現れた京一と二人喜びの視線を交わしていたあの時。
ちらりと一瞬だけ見れた壬生の瞳。
忘れられない。
本当に嬉しそうに、安心したかのように、穏やかで優しい光を纏ったあの…瞳。
後にも先にもあの時一度きり。
もう一度。
その瞳を見たい、そう願った。
きっと…。
それが裏切りと悲しみと苦しみの始まりだった。

京一を好きだった。愛していた筈だった。ううん、今だって彼の事は大好きなのだ。
何時までも側にいたいと願っていた想いは嘘ではなかったのに。
私は京一を裏切った。
そして未だに京一と付き合っている私には壬生に何かを言う資格などないのだ。
そう。彼の人間性をどうこう言う事なんてできない。
今だって………そうだ。

何で私はこの場から去らない?
こんな酷い事を言われて。
何でここに立ちつくしている?
動かない足はなぜ?

答えなんて簡単。

そうしたら。
彼と離れてくれるの?
たとえ彼の身代わりでも、私を愛してくれるの?
見てくれる?触れてくれる??

それはなんて甘美で誘惑に満ちた言葉。

動け、動け、動けっ!
このままでは駄目。
私の気持ちを気づかれてしまう。
こんな…醜い事を考えているのが…ばれてしまうっ。
これ以上嫌われてしまうのは…。
いやっっっ!

心の叫びとは裏腹に体はピクリとも動かない。
どうする事もできずにただ立ちつくす事しかできなかった。
何時までも動く気配を見せない由羽に壬生は少しばかり困惑の表情を浮かべたかと思うとフッと笑みを浮かべて首を振った。

「何?それとも本当に僕の相手をしてくれるの?」

ドクンッッッッッッッッッ!!!!

大きく心臓がはねた。

触れる唇と唇。
僅かに感じた甘い吐息。
耳元で囁かれた直後、キスされて体中を駆け抜けた感覚に震えた。
震えて。
それがあまりにも甘美で快く、もう一度…と口走って、自分からねだってしまいそうなその衝動に耐えた。

「へぇ…もしかしてカンジてるんだ?」

ビクンッ…!
侮蔑も露わにそう言われても。
仕方がない程に壬生を欲しがっている自分に気づいて羞恥に頬を染めた。
そして怯えるように由羽は背を向けて走り出した。
このままここにいてはいけない。
このままここにいれば。
彼の前にいれば。
自分は……。

ガンガンと煩い程に跳ねる心臓に息を乱して、暫くすると由羽は足を止めた。
月を仰いで涙を零した。
「あ、ああぁ…。」
自分で自分を抱きしめるようにしながら、湧き出る押さえきれない想いに一生懸命耐える。

もっと側にいたかった。
もっと触れたかった。
もっと触れて欲しかった。
もっとあの人の全てを全身で感じてみたかったっっ!
体全部が言ってる。
もう駄目。
もう抑えられない。
あの人が………好き………。
ただそれだけ。
倫理も道徳も常識も何もなく。
相手がどんな人かとか関係なく。

それでも。
自分は嫌われているのだと。
切なく涙をさらに流す。
唇を両手の指先で押さえるようにした。
「触れた…唇………。」
そしてちらりと頭をかすめたのは京一。
「ごめん…。」
ポツリとこぼれ落ちた言葉を月だけが聞いていた。

―・◆・―

走り去る彼女の背中を見つめながら、沸き上がる想いに自分の体を一生懸命抱きしめて、抑え付けた。
何時だって彼女の背中ばかりを見てきた。
本当はそんなのはいやなのだ。
何時だって彼女の正面に立ち、自分だって彼女の瞳を真っ直ぐに見つめたかったのだ。
でも。
そんな事をしたらきっと自分は抑えられない。
もう、止められない。
溢れ出した想いはきっと暴走して、彼女を引き裂くだろう。
「由、羽………。」
彼女が身を翻すのが後数瞬遅かったなら、この腕は彼女を抱きしめていた。
きっと抱きしめたまま。二度と離せない。

触れてしまった唇が熱い。
しっとりと暖かく柔らかい彼女の…。
思い出すだけで、体が熱く燃え上がる。
切ない吐息を深く深く吐き出した。
きっと彼女は許さないだろう。
彼女を侮辱し、尚かつあのようにしてキスをした。
最低な人間として、彼女は僕を嫌うだろう。
抑えきれない想いを無理矢理に封じ込めるように体をくの字に曲げて自分で自分を抱きしめる腕に力を込めた。
「馬鹿な…事を………ふっ…ふふふふ……。」
月光が長い長い陰を造っては揺れた。

まるで自分を待っているかのように黙ったまま立ちつくして何かを待ちわびるかのような表情の彼女を見たら愛おしくて堪らなかった。
そんな顔をされて。
黙っている事など出来もせず。
触れてしまってから自分の愚かさを呪った。
自分の行為を誤魔化すように、気持ちをうち消すように、再び彼女を傷つける言葉を吐き出した。

「最低最悪、だ。」

月を見上げて、立ちつくす。
いっそのこと彼女の全てを奪い尽くせば。
この渇いた心は癒されるのか。
無理矢理彼女を蹂躙して、全てを失えば。
この足掻く心は解放されるのか。

もう選択の余地はあまりない。
一度触れてしまえば忘れる事なんてできない。
なんて甘く、心の底まで惑わせるような感覚。

好きだ、好きだ、好きだ…。
君の全てをこの腕に抱きしめて、一晩中感じていられたなら。
君の全てを…。

無理な事と知りつつ思わずにいられない。
彼女の恋人である男を殺したかもしれない、そんな組織に属する男。
それがどんな正義の元であれ、人を殺めて生きていく、ただの殺人者。
そして君の瞳は最初から僕以外の人間にしか向けられていなかった。
昔も。
今も。
いや、今ではさらに見下げ果てた男と思われているだろう。

どうしようもない想いを捨てる事もできず、未だにぐずぐずと足掻いている。
愚かで、救いようがない。
あざ笑うような笑みを浮かべて、月に背を向けた。
「ジ・エンド。終わり、だ……。」

―・◆・―

踊る踊る。
愚かしい想いに突き動かされるように。
操られるように。
それに抗う術を僕は知らない。
あるとすればそれは―――

 

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